働き方"デザイン"研究所

せっかく働くのだから楽しくしたいよね。という考えのもと、知っておくべき情報を発信します。

仕事がないのでシフトの時間よりも先に帰らされました――シフトよりも早く帰った場合の給与ってどうなるの?

f:id:lapislazuri33:20181009213553j:plain こんにちは、HRコンサルタントのknotです。

「今日はお客さんも少ないから、シフトの時間よりちょっと早いけど帰っていいよ」

なんて言葉をアルバイト先で言われたことのある方、いらっしゃるのではないでしょうか。

飲食業を営む経営者の方からするとお客さんの出入りが少ないのであれば、人件費削減のために仕事がなければ帰ってほしいと考えてしまうのではないでしょうか。

大学生の方は、シフトよりも早く帰ることになった!

経営者の方は、シフトよりも早く帰らせてもいいの?

皆さんも気になるケースかと思いますので、
今回はパート・アルバイトの方に対して、シフトで定められた時間より早退させる場合の注意点を、事例を用いて解説いたします。

  
  

  
  

事例紹介

とあるカフェのホールスタッフとして働くアルバイトのAさん

雇用契約の内容
時給:1,000円
10時から16時までの6時間勤務
14時から20時までの6時間勤務
①および②のどちらかを選択するシフト制

上記の雇用契約を交わしたAさんは、
働く1か月前にAさんの働ける希望のシフト表をカフェの店長に提出し、
お互いにスケジュールの調整をしてシフトを決めていました。
  
ある日、②のシフトで14時から仕事に取組んでいたAさんですが、
天候が悪く、お客さんの足取りがなくなったこともあり、16時を過ぎたところで手が空いてしまいました。
そんなAさんを見かねてか、
「今日は20時までのシフトだったよね?この調子だと来客も少ないだろうし、ずっといるのも退屈だろうから今日はもう17時で上がって」
Aさんとしては、本来の20時まで働きたかったのですが、
店長の指示なので仕方なく17時に上がることにしました。
  
後日、17時から20時までの3時間の給与について店長に尋ねたところ、
「時給なんだから、働いていない時間には給与出ないよ」
一言だけ説明があり、早く帰った時間について、給与の支払いはありませんでした。
  
さて、よく耳にする今回のケースでは、どうなるのでしょうか?

  
  

民法と休業手当の考え方

まず、Aさんと店長は、
どのような勤務をしてもらうのか、それに対してどのような対価(給与)を支払うのか、 雇用契約を結ぶことで決定します。

時給の場合、

働いた時間に対して給与は支払われる=働いていない時間に対しては給与は支払われない

が基本的な考え方ですので、
仮にAさんが自分から早く帰ることを店長に伝えたり、
店長から「もう仕事ないんだったら帰る? 帰る時間については給与出せないけど」等のやり取りがあった上で納得して帰った場合は、 ノーワーク・ノーペイの原則が適用できることになり、早く帰った時間については給与は必要ありません。   
  
しかし、今回のケースでは店長から指示が出されている点が問題となります。
Aさんが働きたいと思っているにも関わらず、 顧客がいないという店長の都合で働かせていませんよね?
店長の都合によって、Aさんが本来受けられるべき権利(今回のケースでは給与)の取り扱いについては、まず民法にて規定されています。
  

民法第536条2項
「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない」

  
非常に固い表現がされていますが、端的に言うと
  

雇用契約で1日6時間が働く時間と定まっていれば、会社の都合で6時間働くことができなかった場合でも、6時間分の給与を受ける権利がある
  

ということなんですね。
しかし、民法の規定を用いて実際に給与を全額支払ってもらうには、最終的には民事訴訟になってくるだけでなく、この規定自体を排除することも手続きを踏めば可能ですので現実的ではありません。
そこで労働基準法により、民法では不十分である働く人の権利の保障がされています。
  

休業手当
「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない」

  
Aさんは仕事がないために店長から帰るように指示されていますので、休業手当の対象になり得ますよね?

しかし、今回の事例ではさらに気をつけなければならないのです!
  

1日のうち、部分的に休業した場合

働いている途中で、仕事がなくなったため帰るケースのように、 部分的に働いている場合の取り扱いは更に複雑になってしまうのです。
  

「1日の所定労働時間の一部のみ使用者の責に帰すべき事由による休業がなされた場合にも、その日について平均賃金の100分の60に相当する金額を支払わなければなりませんから、現実に就労した時間に対して支払われる賃金が平均賃金の100分の60に相当する金額に満たない場合には、その差額を支払わなければならない」
(昭27.8.7 基収3445)

  
これは行政から出された通達なのですが、

  • 現実に働いた時間に対して支払われる給与が、平均賃金の6割より少ないときは、その差額が休業手当として支払わなければならない
  • 現実に働いた時間に対して支払われる給与が、平均賃金の6割以上のときは、休業手当の支払いをする必要はない

と定められているんですね!

休業手当は、最低限度の生活を保障する制度ですので、いくら会社からの指示で働けなくなったとしても、そのすべてが保障の対象になるわけではないのです。
  
  

今回の事例にあてはめて考えますと、
時給1,000円で6時間働く予定だったAさんが、
3時間働いて、残りの3時間は早く帰っていますので、
平均賃金を例えば1日6,000円とした場合、

休業手当=平均賃金1日6,000円×0.6=3,600円

給与=1,000円×3時間=3,000円

この差額を計算すると、
3,600円-3,000円=600円

従って、本来は600円の休業手当の支払いが必要になる! というわけです。

  
  

まとめ

実際のところ、休業手当の支払いが適切にされているのか難しいところではあります。
法律を知っていたとしても、アルバイトやパートの契約だと、波風を立てたくないので黙っている方も多いと思います。
しかし、法律を知っておくことで身を守れることもありますので、今回はシフトよりも早く帰った場合の原則的な取り扱いを解説いたしました。
平均賃金の計算方法は、別の記事にて解説いたしますのでご了承ください。

似たような事例としまして、
台風の際における休業手当の記事を過去に書いておりますので、こちらも併せて読んでいただければ幸いです。

lapislazuri33.hatenadiary.jp